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鷲見産婦人科 開院前インタビュー
「女性の一生に寄り添う、“まちの婦人科” を守るために」

By 2025年4月23日No Comments

旧百瀬医院の跡地を受け継ぎ、開業することとなった鷲見産婦人科。本コラムではその経緯とともに、院長鷲見悠美の新医院への思いをインタビュー形式でお伝えします。

ずっと、
「まちのお医者さん」になりたかった

―まずはじめに、先生の来歴について、お聞かせください。

鷲見院長(以下、鷲見) 2007年に大学を卒業後、初期研修を経て信州大学の医局に所属し、そこから派遣というかたちで2011年より伊那中央病院に勤務をして13年目になります。
婦人科医になることは最初から想定してはいませんでしたが、大学で学ぶうちに婦人系の手術にやりがいを感じていきました。そこで、三年目で産婦人科の研修に行き、この道に進むことを決めました。現在は日本産婦人科学会専門医・指導医、母体保護法指定医という立場でもあります。

ー今回、総合病院から独立され、開業をされることになったのは、どのような経緯があったのでしょう。

鷲見 医師になることを志したときからずっと、「いつかまちのお医者さんになれたら」という思いを目標として描いていたんです。ただ、こんなに早くタイミングが訪れるとは思っていなくて。正直、開業に迷いはありましたが、伊那市で女性たちを支えてきた百瀬先生がお辞めになるということで、その場を受け継ぐつもりで決めました。

まちのなかからひとつの病院がなくなる、ということは、医師それぞれのご事情もあり、仕方のないことです。しかし一方で、閉院によって少なからず次の受診先について困ったり、悩んだりする患者さんが出てしまう、というのも現実です。今回、百瀬先生の引退をお聞きしたとき、そうした患者さんを引き続き受け持たせていただきながら、新たな患者さんにも訪れてもらえたら、と考えました。

じつは女性も知らない、女性の疾患の多様さ
だからこそ「ちょっと不調」でもぜひ受診を

―婦人科は、かなり状態が悪くなり、生活に支障をきたすようになってはじめて訪ねる、という方が多いと聞きますが、現状はどうなのでしょう。

鷲見 私の実感でも、そのような傾向は強いのではないかと感じています。命にかかわる癌などの病気であっても、かなり進行してからいらっしゃる方は少なくありません。先日も、勤務している外来に「なんでここまで進行するまで放置してしまったんだろう」、という方が見えて……。我慢強く、自分のことをあとまわしにしてしまう女性が多いのかもしれません。

―感じている不調が、婦人科にかかるべきものである、ということに気づかない方もなかにはいらっしゃるのではないかとも感じます。たとえば、年齢を重ねていくことで現れる女性特有の疾患などには、どのようなものがあるのでしょう。

鷲見 代表的なものといえば、まず更年期障害によるからだの不調です。症状はホットフラッシュなどよく知られているものだけでなく、めまいや肩こり、体の痛み、不安やパニック感など精神的症状も含め本当に多岐にわたるので、更年期によるものと気づかれない方も多いんです。そして、意外と多いのは、骨盤臓器脱です。

―骨盤臓器脱、はじめて聞きました。

鷲見 子宮や直腸が、腟から出てきてしまう症状なんです。お子さんを多く産まれた方や、畑作業でしゃがむ体勢を日常的に取られる方など、徐々にそのような状態になることがあります。このような症状に対して、通常婦人科では「ペッサリー」というリング状の器具を膣内に装着し、再度の臓器脱が起こらないように支える、という処置が選択肢となります。

―そんなことが起こる可能性があるんですね……とくに妊娠、出産で痛感しましたが、その後も女性のからだに起こることは「聞いてないよ」と言いたくなるようなことばかりで。

鷲見 「聞いてない」、まさにそれがほとんどの方の実感だと思います。そしてそれは、個人の責任ではないですよね。性教育の遅れに加え、そもそも女性の体が一生の中でどのように変化していくのかを知る機会があまりにも少ないですから。
そしてそここそが、鷲見産婦人科が「まちのお医者さん」として担っていける部分だと考えています。

手術になるまえに
対処し、回復できたら

―出産前の準備や、病気が悪化する前の小さな不調への適切な診断や治療こそ、鷲見産婦人科の本領が発揮できる部分ということですね。

鷲見 はい、そうありたいと思っています。これまで勤務してきた総合病院では、外来と病棟業務の両方を担当していましたが、それぞれ「手術」や「分娩」という業務が中心でした。なかでも私は手術に力を入れて、経験を積んできました。開業すると、この「手術」という武器がなくなってしまう、という部分もないわけではありません。

けれどいまは、「『困っている』程度の段階で良い方向へ導くことができたら、そもそも手術をする必要がなくなるのでは」と考えています。「ここがあったから悪くなる前に気づくことができた」という場所になることが、いちばんの目標かもしれません。

ーたとえば具体的に、どの程度の「困った」をお聞きして良いものでしょうか。

鷲見 わかりやすい例でいうと、おりものや経血の状態などは、日常的に人と比べることはできない、個人的なものになっていますね。また、「おなかが痛い」というのも、腸などの問題なのか、子宮に関わるものなのか、判断することは医師でもすぐにはできません。だからこそ、まず頼りになるのはご自身の違和感。「おりものや経血の状態がちょっと違うかも」「いつもとは違うおなかの痛みだな」というときには、ためらわず受診に動いていただけたらと思います。

中高生にも伝えたい、
「病気かどうかわからなくても、訪ねて来てね」

―現在、想定している患者さんの年代は、やはり閉経前後以降の方が中心でしょうか。

鷲見 これまでこの場で開業されていた百瀬先生には、そのような年代の患者さんが多かったと聞いています。ただ、私としてはもっと手前の、中高生の女の子たちにも今後、足を運んでもらえたらと思っています。

―妊娠出産、更年期といった年代よりもさらに前の、月経開始後の女性たちにも足を運んでほしいということですね。

鷲見 はい、ぜひ中学生や高校生のころから、月経の悩みなどを気軽に相談してもらえたら、嬉しいです。

―というと、PMSの改善につながる低容量ピルの処方相談なども含まれますか?

鷲見 もちろん、それも必要に応じて実施したいと思っています。PMSに関しては、私も当事者としてとても苦労をしてきて。月経時もいろいろなナプキンをひととおり使ってみたり、月経軽減のためのフェムテックもたくさん自分で試してきたので、より実感のこもったアドバイスができると思っています。

また、私自身はミレーナ※を入れることでかなり生活が楽になりましたが、まず月経カップからでも、多くの方に試していただきたいなと思っています。月経カップを使いこなしておくと、たとえば災害時にナプキンが買えなくても対処できるなどといった利点もあります。

※ミレーナ:子宮内に装着する避妊リングであると同時に、過多月経等の改善にも有効性が認められている。2014年からは子宮筋腫、子宮内膜症等にともなう月経困難症の治療として保険適用となっている。

―治療にあたっては、一般的な西洋医学の薬だけでなく、漢方なども処方いただけるのでしょうか。

鷲見 はい、状況やご希望に合わせて、漢方薬の処方もする予定です。ただ、ものすごく詳しいと言うほどではないので、今も勉強中です。

―改めて考えてみると、女性が婦人科で相談できること、すべきことは、年代も含めて意外と幅広いですね。

鷲見 10代のころから婦人科を訪ねる習慣ができると、女性のQOLの改善に役立てる面は大きいのではないでしょうか。日々、相談できるようなベースがあったら、万が一、望まない妊娠をするような事態になっても、一人で抱え込まず、「鷲見先生に相談してみよう」と思ってもらえるかな、など……。

女の子たちには、「病気になったら来てね」ではなく「病気かどうかわからなくても、気になることがあったら来てね」と、伝えたいです。当院はこれからそのことを、さまざまな形で表現する場でもあれたらと思います。

経験からも実感する
産前産後ケア、そして日常の受診

―産婦人科を頼る代表的なタイミングといえば、やはり妊娠・出産に関わるところかと思います。鷲見産婦人科では分娩は扱いませんが、妊娠期の定期検診や産後の不調などにも対応されていきますね。

鷲見 出産の場所としては当院から伊那中央病院をはじめとする総合病院へご紹介が可能ですし、たとえば産婦人科医のいない助産所などでの出産を希望される方の妊婦健診も対応を検討しています。

―そして産後ですが、私自身、第二子出産後に産後うつに近い状態になり、苦しかった経験があります。

鷲見 産後のメンタルケアは勤務先だった伊那中央病院でも力を入れていますが、当院でも同様に大切にしていきたい分野です。日本産婦人科学会から発表されたデータによると、「日本では妊産婦死亡の原因の第一位は、疾患や感染症によるものではなく、自殺である」という状況があります。そのような事態を変えていくためにも、精神科との連携も含めてサポートを行なっていきたいと思っています。

ー最後に、開業にあたってのメッセージをお願いします。

鷲見 妊娠出産期はもちろん日常でも、ちょっとでも不安に思ったり、違和感があったら、迷わず相談していただけたら、と心から思っています。
たとえば体の不調を感じて、「異常はありませんね」という結果でも、それが安心して暮らせる材料にしていただけたら。不安を抱えて生活しているのではなく、ちょっと行って、話して、診察してもらって何ともないよって言って帰る。そういう、行きつけの産婦人科として利用していただきたいですし、不安そのものがないときにも、定期検診を受けていただきたいです。


日付 : 2024年10月26日
ヒアリング&テキスト : トビラ舎 玉木美企子
撮影&スタジオ提供 : FIELD WORK

鷲見産婦人科

〒396-0025
長野県伊那市荒井 3502
Tel 0265-96-0317